自然災害リスクを調べる:「重ねるハザードマップ」の活用

【注意事項】
今回掲載した情報は、執筆時(2019/10/14)のものです。防災情報を確認する際には、必ず最新の情報にあたってください。
 
 
自然災害に備えるには、まずは身近な場所の危険性を知ることが重要です。そんなとき役立つのが、ハザードマップです。
 
もし、公開されている情報がどこにあるのか分からないときには、国土交通省わがまちハザードマップが便利です。全国の地方自治体が公開しているハザードマップへのリンクが見つかります。
 
今回の記事の本題である重ねるハザードマップは、特に複数の地域の情報を確認したいとき(引っ越し先を検討する場合など)にとても便利です。
国土交通省の「重ねるハザードマップ」では、災害に関係する様々な情報を、地図上で確認することができます。しかも、Googleマップを見るのと同じような感覚で、表示する場所を動かしたり、拡大・縮小したりすることができます。
洪水や津波の浸水想定や土砂災害警戒区域等、道路冠水想定箇所、土地条件図や治水地形分類図、活断層図などが公開されており、かなり良くデータが集約されている印象です。
 
先に操作方法を簡単に確認しておきます。詳しい操作方法は、重ねるハザードマップ操作マニュアルにあります。

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地図の操作(重ねるハザードマップ操作マニュアル/国土地理院
 
ここでは、ハザードマップポータルサイトの紹介にある「大雨が降ったときに危険な場所を知る」を参考に、青森県八戸市八戸港周辺を確認してみます。

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ハザードマップポータルサイトの紹介(国土地理院
 
八戸市周辺に地図を移動し、左上の「洪水」「土砂災害」「道路防災情報」アイコンをクリックしてみました。
地図上に情報が重ねて表示され、アイコンの下に表示中の情報のリストが現れます。

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色付けされている領域は、洪水や土砂災害のリスクが高いことが分かります。また、洪水や土砂災害の想定に加えて、道路の冠水が想定される場所(中央下部の!マーク)も表示されました。


今度は、洪水の被害を特に受けやすい場所を探してみます。
「土砂災害」「道路防災情報」アイコンをもう一度クリックして、表示を消します。
更に、画面右のカバンアイコンをクリックして、「表示」をクリック、更に「2画面表示」をONにします。

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これで、左右で別々の情報を表示できるようになります。情報が被って見にくい場合に便利な機能です。片方の表示範囲を動かしても、もう片方が自動で動いてくれないのがたまにキズですが…

 
左側は洪水の想定区域を表示したまま、右側では、土地の特徴を見ることにします。
左側では、想定最大規模の情報を一旦消して、計画規模の情報を表示します。浸水深の違いを見やすくするためです。
一方、右側では、「すべての情報から選択」>「土地の特徴・成り立ち」>「地形分類(自然地形)」を順にクリックします。

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比較してみると、かつて河川があった場所で、想定浸水深が深くなっていることが分かります。

 
ちなみに、浸水深の塗り分けの基準が知りたいときは、「洪水浸水想定区域(計画規模)」の欄にある「解説」をクリックします。透過率もここで変更できます。

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少し余談になりますが、地形分類で表示されるように、大きく蛇行した河川がかつてはあったという証拠を探してみます。
左の画面で「写真」>「全国最新写真(シームレス)」を選択しても、ただの街並みが見えるばかりです。

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しかし、「1961~1964年」の写真を見てみると、川の跡に沿ったように見える田んぼの列があります。どうやら本当に河川を埋め立てているようです。*1

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もっと古い戦前の情報を確かめるには、古地図を見る必要があります。
一旦「重ねるハザードマップ」を離れて、古い地図を調べにいきましょう。
埼玉大学の谷先生が開発している今昔マップを使うと、現在の地図と、古地図や昔の空中写真などを分かりやすく比較することができます。ハザードマップの情報が必要なければ、「重ねるハザードマップ」よりも使いやすくて便利だと思います。

 
というわけで、さっそく八戸港周辺を確認してみると……

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残念ですが、ちょっと公開範囲を外れてしまっていました。

 
せっかくなので(ここまで書いてしまったので)、別の方法で確認してみます。
 
八戸の地図がありました。

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表示してみると、大正3年測量の地図のようです。

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見たい領域は右下にありました。

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大きく蛇行していた旧河川は、すでに田んぼとして活用されていたことが分かりました。当時の集落は、自然堤防(河川が氾濫した際に土砂が溜まって形成される)に位置していたと思われます。

 
残念ながら直接の証拠を得ることはできませんでしたが、土地利用から河川の痕跡を確認できました。
ハザードマップとの比較から、こうしたかつての河川の痕跡が、災害時に蘇ってくるということが分かります。
 
次に、やはりハザードマップポータルサイトの紹介にある「強い地震が起きた時に被害のおそれのある場所を知る」を参考にしてみます。

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2画面表示をOFFにして、「すべての情報から選択」から「活断層図」「急傾斜地崩壊危険箇所」「大規模盛土造成地」を表示してみます。

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がけ崩れの恐れがある場所が薄紫で表示されました。

 
地形を理解しやすくするため、地形の陰影を重ねて表示してみます。
「すべての情報から選択」>「標高・地形」>「陰影起伏図」をクリックすると、地形の陰影が表示されます。

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なぜ危険なのかが、視覚的に分かりやすくなりました。
ただし、「陰影起伏図」と「急傾斜地崩壊危険箇所」のように、重ねて表示すると見にくくなる組み合わせもあるので、注意が必要です。

 
地震のあとに津波がやってくる場合もあります。左上にある津波アイコンをクリックして、津波の浸水想定も重ねてみます。

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ちなみに、「解説」を押して表示される「データの掲載状況一覧」を見ると、このデータの出典が分かります。

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確認してみると、このデータの出典は青森県です。
青森県によれば、この地域の浸水想定は、青森県が2012年に想定した最大クラスのモデル*2に基づいています。
 
最後に、八戸市が公開しているハザードマップを確認してみます。
右上のほうにある虫眼鏡のアイコン(「わがまちハザードマップを見る」)をクリックして、見たい地域のハザードマップを確認することができます。

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八戸市のWebページに移動し、ハザードマップや災害情報の入手方法などを確認できます。以下の画像は、八戸市津波避難ガイドブックの中にある図です。

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今回確認した地域では、指定避難所の情報は八戸市ハザードマップにのみ記載がありました。やはり、特に避難を考える上では、自治体の最新情報を確認する必要があります。
 
この記事の内容をまとめますと、以下のようになります。
地方自治体が公開しているハザードマップが最も重要
・複数の地域の情報を確認したいときなどに、「重ねるハザードマップ」が便利
・土地の変遷を見たいなら、「今昔マップ」が便利
 (公開されている地域外であれば、スタンフォード大学のWebサイトなどが便利)

 

不明な点や誤りなどありましたら、コメントにてお知らせいただけると幸いです。

*1:実際に、戦後撮影された空中写真をかなり参考にして作成されたようです。
「地形分類図を作成する際に最も重要な資料は、終戦直後に米軍によって撮影された空中写真であり、約4万分の1(全国を網羅)と約1万分の1(平野部を中心に撮影)の2種類があります。」(治水地形分類図解説書国土地理院
ちなみに、古い空中写真は、国土地理院地図・空中閲覧サービスで確認することができます。

*2:「最大クラスの津波は、現在の科学的知見を基に、過去に実際に発生した津波や今後発生が想定される津波から設定したものであり、これよりも大きな津波が発生する可能性がないというものではありません。浸水域や浸水深は、局所的な地面の凹凸や建築物の影響のほか、地震による地盤変動や構造物の変状等に関する計算条件との差異により、浸水域外でも浸水が発生したり、浸水深がさらに大きくなったりする場合があります。」(津波浸水想定について(解説)青森県